the letter
「ごめん、ちょっと」
移動教室の帰り道だった。職員室の前を通ったあたりで、世良真純は短く断って友人の輪から抜け出した。彼女の友人である蘭と園子は、そんな彼女の行動を不思議そうに目で追っていく。
視線の先で、真純は誰かに話しかけていた。艶やかな黒髪が特徴的な、綺麗なひとだ。上履きの色から察するに、どうやら相手は三年生の先輩であるようだった。
「先輩、はいこれ!」
「わあ。ありがとう、ますみさん」
小走りで先を行った真純に二人が追いつくと、会話の内容がよく聞こえた。教科書にでも挟んでいたのか、真純がたった今渡したらしい封筒が、彼女が先輩と呼ぶ女生徒の柔らかい指先に優しく包まれている。ただ真っ白いだけのその封筒には、宛名も差出人の名前も存在しない。
二人の邂逅はごく一瞬だった。
少し離れた場所に立つ蘭と園子を見とがめて、先輩はすぐに真純を見送った。向けられたじゃあまたねの言葉に、真純は短く頷くと、来たときと同様に元気よくその場を去っていく。大きく振られた真純の手に、先輩が小さく応える様子が、対照的な二人の性格をあらわしているようだった。