んなにはひみつ

 わたしが船に乗ったとき、麦わらの一味にわたしより幼いひとはいなかった。それ自体は別にたいした問題ではなかったけれど、グランドラインに入ってチョッパーが仲間になったとき、その見た目や周囲からの構われ方にすごく親近感を覚えたのは仕方がない。チョッパーもまた、小さいわたしに共感する部分があったようで、わたしにしては珍しく、チョッパーとはすぐに打ち解けることができた。
 時期的にはウォーターセブンくらいだったと思う。辿りついた島でチョッパーと本屋巡りをしたときがあった。目的地に着くと散開して各々専門分野のコーナーへ向かうのだけれど、合流して街中を歩いているときには気になる食べ物を買って分けたりして、ふたりで十二分に島を満喫していた。そんなとき、わたしたちは『最高の握手』に出会ったのだ。
 視線の先にある広場で、仲の良さそうなお兄さんたちがリズミカルに腕や拳を合わせている。目まぐるしく切り替わるそれがものすごく格好良かったので、わたしとチョッパーはおもわずそれに引き寄せられてしまった。興奮のままに先ほどの手を合わせる動作は何なのかを尋ねると、仲間内に紛れ込んだ見知らぬ子供であったのにも関わらず、親切なお兄さんは面白そうに笑いながらあれは握手なのだと教えてくれた。
「最高の仲間には最高の挨拶が必要だろ?」
 お兄さんの言葉に首がもげるんじゃないかってくらい頷いてチョッパーの方を振り向けば、チョッパーもわたしの方を振り向いたところだった。考えてることは絶対一緒だ。わたしたちはその握手を教えてほしいと揃って勢いよく頭を下げた。のだけど、これは俺達のものだからとあっさり断られてしまった。あまりに残念でしょぼくれていると、自分たちで考えて自分たちの握手を作ることに意味があることを補足してくれた。教えはしないけど見せてあげることはできるとも言って、お兄さんたちは代わる代わるいろんな握手を見せてくれる。故郷に残ってる手遊びに似たような動きもあれば、肩を合わせたりハイタッチをしたり、一歩ずつ踏み込んで足を合わせたりなんて手が一切関係ない動作もあったりして驚いた。
「チョッパーどうするどうしたい!?」
「おれ、あれやりたい!」
「お兄さんたちありがとう!!」
「ありがとう!!」
 ふわふわ落ち着かない気持ちのまま全力でお礼だけは伝えて、作戦会議をしながら帰路を急ぐ。ああでもないこうでもないと思考錯誤を重ねながら、それから数日はわたしのアトリエでふたり、握手の練習をしたのだった。
2017.10.11